よくあるご質問(Q&A)
- Q明るい部屋なら近視の進行は防げるのですか?
- A
明るさは大切ですが、近視進行の主因は「近くを長時間見続けること」と「屋外活動不足」です。
- Qどれくらいの“連続近見”が問題になるのですか?
- A
30分を超える連続近見が続くと、眼軸長が一時的に伸びる現象が報告されています[1]。
- QオルソケラトロジーやRLRLは、この問題とどのように関わるのですか?
- A
環境因子と併せて理解することで、治療の役割がより明確になります。
1. 明るさだけでは近視進行を抑えられない理由
明るい部屋で学習すること自体は、目の疲れを軽減するという意味で重要です。しかし、“明るさ”という単一の要素では、近視進行の本質的なメカニズムを抑えることはできません。
近視は、眼軸長(眼球の前後方向の長さ)が伸びることで進行します。その伸びを誘導する主因は、
(1) 長時間の連続近見
(2) 屋外での光刺激不足
であることが世界的に認められています[1][3]。
つまり、照明を十分に確保しても、
・机に顔を近づけて読む
・タブレットを至近距離で使い続ける
・屋外に出る時間が少ない
といった行動が積み重なると、近視は進む可能性が高いのです。
照明は「見やすい環境」を整える要素であり、近視進行の主因に直接切り込むものではありません。この点を理解しておくことが、まず大切です。
2. 30分以上の連続近見がもたらす“眼軸長変化”
近視研究では、30分以上の連続近見に注目が集まっています。
読書・タブレット学習・ゲームなど、近距離で視作業を続けると、ピントを合わせる“調節”が持続し、眼球の後方が微妙に伸びる現象が確認されています[2]。
この眼軸長の短期的な伸びは一時的なものですが、
習慣として繰り返されると、恒常的な“眼軸長の延長”につながる可能性がある
と考えられています。
特に現代の子どもは、
・視距離が極端に近いタブレット学習
・解像度の高いディスプレイ
・休憩を挟まない没入型の学習・ゲーム
といった環境にさらされやすく、近見負荷が強い状況が続きがちです。
明るい部屋であっても、
● 机に近づきすぎる
● 画面に顔を寄せる
● 30分以上休まず続ける
といった状況では、眼軸長は伸びやすくなります。
“明るくしているのに落ちる”という背景には、このような連続近見の影響が深く関わっています。
3. 屋外活動不足が近視進行に強く関わる理由
屋外活動は、近視進行に対して最も明確な“保護因子”として位置づけられています。
屋外の光強度は室内の数十倍〜数百倍に達し、この強い光刺激によって網膜からドーパミンが放出され、眼軸長の伸びを抑制する方向に働くと考えられています[3]。
また、屋外では
・視距離が自然と遠くなる
・姿勢が固定されない
・近見作業から離れる時間が増える
という複数の利点があります。
つまり、屋外活動には
(光刺激) × (遠方視) × (近見の中断)
という三重のプラス効果が存在しており、室内の明るさだけでは代替できないのです。
「明るい部屋」にしても近視が進む子が多いのは、屋外での時間が圧倒的に不足しているという現代的背景が大きく関係しています。
4. 近視進行抑制治療(オルソケラトロジー・RLRL)との関係
近視進行抑制治療は、生活習慣の影響を“相殺する”ものではありません。
むしろ、
“生活習慣と併せて考えることで治療の意義がより明確になる”
という性質があります。
オルソケラトロジー
角膜形状を夜間に変化させることで、焦点位置を調整する治療方法です。近視進行抑制効果に関する報告が多数ありますが[4]、
- ・至近距離の連続使用
- ・休憩が少ない
- ・屋外時間が短い
といった環境因子が強い場合は、抑制の効果が十分に得られにくい可能性があります。
RLRL(低照度赤色光療法)
特定波長の赤色光を一定条件下で照射する治療で、近視進行抑制効果の報告があります[5]。
ただし、これも生活環境の影響とは独立していません。連続近見や屋外活動不足が続く場合は、効果が分かりにくくなることがあります。
治療が「効かない」のではなく、
近視の進行が“生活習慣に強く依存する疾患”である
という点を正しく理解しておくことが重要です。
5.保護者の方へ伝えたいポイント
「明るい部屋で勉強させているのに、どうして視力が落ちるのか」という疑問は多くのご家庭で生じます。
しかし、明るさは近視対策の“補助的要素”にすぎず、主役は
視距離・連続近見時間・屋外活動の量
の3つです。
今日からできる対策としては、
・30分ごとに遠くを見る休憩を入れる
・顔を近づけすぎない習慣をつける
・できる範囲で屋外に出る時間を確保する
などがあります。
こうした行動の積み重ねが、治療を含めた近視対策全体を支える大切な土台になります。
参考文献
[1]Huang HM, et al. “Near work, outdoor activity, and myopia in children: an updated systematic review.” Clin Exp Optom.
[2]Read SA, et al. “Short-term changes in axial length in response to visual stimuli.” Invest Ophthalmol Vis Sci.
[3]Wu PC, et al. “Outdoor activity during class recess reduces myopia onset and progression.” Ophthalmology.
[4]Charm J, Cho P. “High myopia progression and efficacy of orthokeratology.” Ophthalmic Physiol Opt.
[5]Jiang Y, et al. “Low-level red-light therapy for myopia control: a randomized clinical trial.” JAMA Ophthalmology.

