よくあるご質問(Q&A)

Q
テレビに近づくのは「視力が悪い」サイン?
A

必ずしも近視とは限りません。多くの場合「調節緊張(ピント合わせの筋肉の過負荷)」により“近づいた方が楽”になっているケースがあります。

Q
「悪い癖だからやめなさい」と注意すべき?
A

実は逆で、子どもは“見えにくさの原因を自分なりに補っている”ことがあります。叱る前に理由を理解することが大切です。

Q
放置して良い?近視になる?
A

放置は危険です。調節緊張が続くと、本当の近視へ進行しやすい環境になり、早期介入が重要です。

1. “テレビに近づく=近視”とは限らない理由

親が最も不安に感じるのが
「うちの子、テレビに近い…もしかして視力が悪い?」
という光景です。

しかし、医学的には
「近づく=近視」ではありません。
視力が良くても、子どもはテレビ・本・タブレットに近づくことがあります。

その主な理由が、
調節緊張(仮性近視)
です。

子どもの目は、大人より調節力が強く、ピントを近くに合わせることが簡単です。
そのため、近くを見ることが“楽で速い”と脳が判断すると、自然と距離が短くなります。

さらに、子どもは興味のあるものに身体ごと近づく傾向があり、姿勢や集中度の影響も強く出ます。
つまり、
「悪い癖」というより、「合理的な行動」であることが多いのです。


2. 子どもの“近づき癖”には脳の発達も関わっている

幼児〜小学生の視覚はまだ発達途中で、

  • ・目で見る能力
  • ・脳で処理する能力
    の両方が発展している段階です。

特に就学前〜低学年は、
細かい文字や情報を認識する際に、近づいた方が脳で処理しやすい
という特徴があります。

「見えにくい」だけではなく、
近くの方が理解しやすい”という脳側の理由
も行動に影響します。

親から見ると
「なんでそんなに近くで見るの?」
と感じますが、子どもの脳にとっては“自然な選択”である場合も珍しくありません。


3. では本当に危険な“近づき方”とは?

すべての近づき行動が正常とは限りません。
視力低下や神経発達、片目の異常などが隠れているケースもあります。

要注意のサイン

  • ・片目を細める・隠す
  • ・極端に近い距離でしか見ない
  • ・姿勢がいつも同じ(横向き・顎が上がるなど)
  • ・つまずく、距離感を誤る
  • ・急に近づき癖が強くなった
  • ・黒板が見えにくいと言う
  • ・頭痛・肩こりを訴える
  • ・家族に強度近視が多い
  • ・本を読む時も過度に近い

特に、
片目だけ見えにくい場合は、子ども自身が気づきにくい
という特徴があり、親が行動から判断するしかありません。

こうした行動が見られたら、視力だけでなく屈折・両眼視・調節機能の検査を受ける必要があります。

4. 近づく理由の“もうひとつ”──調節緊張による見え方の変化

スマホ・タブレット・ゲーム機の長時間使用が増えたことで、
近くにピントを合わせ続ける生活が日常化
しています。

調節筋が過働すれば、

  • ・遠くがぼやける
  • ・一度ぼやけると戻りにくい
  • ・強い疲労感
    などが起こり、自然と“近くで見る方が楽な目”になります。

これが積み重なると、仮性近視を経て、
眼軸が伸びる本当の近視へ進行するリスクが高まります[1]。

つまり、
「近づく」という行動そのものは理由があるが、放置すると近視の温床になる
ということです。


5. 家庭でできる“距離と習慣”の対策

テレビとの距離:年齢×20cmが目安
例:6歳 → 120cm
距離が確保できる環境づくりが重要。

スマホは“手首から肘まで”の距離を守る
これは近づき癖を最も減らす現実的な方法。

③ 20-20-20ルール
20分ごとに20秒、6m先を見る。
調節緊張のリセットに有効。

屋外活動を1日2時間
自然光は近視抑制の科学的根拠が最も強い[1]。

読書は姿勢を固定しない
うつ伏せ・寝ながら読むのは近見距離が数十cmまで縮むため不可。

暗い部屋でテレビ・タブレットを見せない
瞳孔が開き、ちらつきが増え、調節負荷が高まる。


6. “近づく行動”に早く気づくことが、子どもの視力を守る第一歩

テレビやタブレットに近づく行動は、単なる「癖」ではなく、目の負担や環境ストレスのサインであることがあります。
このサインに早く気づくことで、子どもの視力が不必要に悪化することを防ぐことができます。

特に成長期の子どもの視力は、生活習慣の影響を強く受けます。
近づき癖が続いているときは、

  • ・姿勢
  • ・画面との距離
  • ・休憩の取り方
  • ・屋外活動の不足
  • ・勉強机の環境
    など、日常の“見え方の環境”を見直すきっかけになります。

また、「遠くが見えづらい」と子ども自身が言語化できない年齢では、**行動の変化が最も早い“視力のサイン”**として役立ちます。

大切なのは、
叱って矯正するのではなく、理由を一緒に理解して、無理のない範囲で環境を整えること。
これだけでも、目の負担は大きく減り、子どもの視力の守り方が変わってきます。


まとめ

テレビに近づくのは、必ずしも近視とは限りません。
むしろ、視力・脳の発達・調節緊張・生活習慣という複数の要因の結果として現れる“サイン”です。

  • ・見えにくさの補正
  • ・脳の処理のしやすさ
  • ・調節緊張の蓄積
  • ・スマホなどデジタル負荷
  • ・姿勢や生活リズム

こうした背景を理解することで、親は“叱る前に原因を探る”ことができるようになります。

そしてこの気づきが、
近視予防・近視抑制治療を始める重要な入り口
になります。

参考文献

[1]近視総合研究会「屋外活動と近視抑制」
[2]大鹿哲郎『眼科学 第4版』文光堂, 2022
[3]文部科学省 ICT活用と視機能報告