よくあるご質問(Q&A)
- Qまぶたが重いのは疲れ目のせい?
- A
一時的な疲労でまぶたが重く感じることはあります。しかし、眼瞼挙筋や腱膜の異常によって起こる「眼瞼下垂」の場合は、休養だけでは改善しません[1]。
- Q若い人でも眼瞼下垂になるの?
- A
はい。加齢性がもっとも多いものの、長期的なコンタクト装用やスマホ・PCの酷使によって若い世代にも起こります[2]。
- Q治療は手術しかないの?
- A
軽症なら経過観察や生活習慣の改善が可能ですが、多くの場合は手術が有効です。近年は腫れが少ない低侵襲法も導入されています[3]。
1. 眼瞼下垂とはどんな病気?
眼瞼下垂(がんけんかすい)は、上まぶたが十分に開かず、瞳孔にかかって視界を狭める状態をいいます。原因の多くは、まぶたを持ち上げる眼瞼挙筋や、その腱膜のゆるみ・断裂です。慢性的に「目を開けづらい」と感じ、無意識に額や眉に力を入れるため、頭痛や肩こりが続くこともあります[1]。
2. 主な原因
眼瞼下垂の原因にはいくつかのタイプがあります。
- ・加齢性眼瞼下垂:中高年に多く、腱膜が自然に緩んで発症します。
- ・コンタクトレンズ性:ハードレンズ装用でまぶたを繰り返し引っ張ることにより、腱膜に負担がかかります。若い人でも起こり得ます[2]。
- ・デジタル眼精疲労:スマホやPCの凝視で瞬きが減り、眼瞼挙筋が疲労して下垂が進みやすくなります。
- ・外傷・手術性:頭部外傷や白内障手術などの影響で一時的あるいは恒常的に発症することがあります。
- ・神経・筋疾患によるもの:まれに重症筋無力症や動眼神経麻痺といった全身疾患に伴うこともあります。
3. 見た目の印象と生活への影響
眼瞼下垂は、単なる「まぶたの重さ」の問題ではありません。まぶたが下がると「眠そう」「不機嫌そう」と見られやすく、対人関係や職業上の印象にも影響します。さらに、視野の上部が遮られて運転や階段の上り下りで危険を感じることがあるほか、額や眉を酷使することで慢性的な肩こりや頭痛が続くこともあります[3]。
4. 治療の選択肢
治療は原因や重症度によって異なります。軽度で日常生活に支障が少なければ経過観察が選ばれることもありますが、症状が強い場合は手術が基本となります。
- ・眼瞼挙筋短縮術:緩んだ筋肉や腱膜を短くし、まぶたを持ち上げる力を回復させる。
- ・腱膜前転術(腱膜固定術):腱膜を瞼板に再固定し、位置を正す。最も一般的で保険適用される方法。
- ・ミュラー筋短縮術:ミュラー筋を部分的に切除して短縮し、まぶたの挙上を助ける。腫れが少なく、術後のダウンタイムが短いのが特徴で、近年広がっている方法です[4]。
多くは保険診療で行われますが、美容目的で挙上幅を大きくする場合や細かいデザイン調整を希望する場合は自費診療となることもあります。
5. 美容医療との違い
美容外科でも「まぶたを上げる手術」が行われていますが、眼科での眼瞼下垂手術との違いは目的にあります。眼科での手術は視野の改善や眼精疲労の軽減といった機能回復が主眼であり、保険適用が可能です。一方、美容外科での施術は「二重幅を広げたい」「ぱっちりした目に見せたい」といった審美的改善が中心で、多くは自費診療です。
両者の境界は曖昧であり、同じ手技が異なる目的で使われることもあります。患者にとって大切なのは「自分が困っているのは機能面か、見た目か」を整理し、適切な医療機関で相談することです。
6. 受診の目安
次のような症状があれば、眼科受診を検討してください。
- ・運転や仕事に支障を感じる
- ・瞳孔にまぶたがかかって視野が狭い
- ・額や眉に力を入れないと目を開けられない
- ・左右差が目立つ
- ・頭痛や肩こり、眼精疲労が続く
7. 日常でできる工夫
- ・スマホやPCの連続使用を避け、20-20-20ルールを実践する
- ・コンタクトは長時間装用を避け、眼鏡と併用する
- ・まぶたを強くこすらない、クレンジング時もやさしく扱う
- ・睡眠不足を避け、十分な休養をとる
こうした工夫はあくまで補助的なものであり、症状が続く場合は医師の診察が必要です。
8. まとめ
「まぶたが重くて開けられない」という症状の裏に、眼瞼下垂が潜んでいることは珍しくありません。加齢だけでなく、現代的な生活習慣やコンタクトの使用も原因になり得ます。眼瞼下垂は見た目だけでなく、視野や体の疲労感にも大きく影響します。
治療は手術で大きく改善が可能であり、近年は低侵襲の方法も登場しています。美容との境界が曖昧な分野だからこそ、「機能改善」と「審美改善」を切り分け、自分に必要な医療を選択することが重要です。
参考文献
[1]大鹿哲郎『眼科学 第4版』文光堂, 2022
[2]日本眼科学会「眼瞼下垂の原因と分類」2021
[3]日本眼科医会「眼瞼下垂と日常生活への影響」2020
[4]清水弘一「眼瞼下垂手術の新しい選択肢:ミュラー筋短縮術の有用性」臨床眼科, 2021

