よくあるご質問(Q&A)
- Q免許更新の視力検査が通れば、交通事故のリスクは低い?
- A
視力だけでは安全運転は保証されません。「視野の広さ」や「注意の向け方」も極めて重要です[1]。
- Q視野が欠けていると、どんなミスにつながるの?
- A
見落としや誤認識に繋がりやすく、特に横断歩道の歩行者や自転車の発見が遅れ、重大事故に直結する恐れがあります[2]。
- Q脳の働きが“視野の見落とし”に関係あるって本当?
- A
はい。視覚情報を処理する脳の認知機能が低下していると、視界に入っていても「見たことにならない」ケースがあります[3]。
1. 視力が良くても、視野が狭ければ危険
多くの人は「視力=よく見える能力」だと思っています。しかし、交通事故予防においては“視野”も欠かせない視覚要素です。
視野とは、目を動かさずに見える範囲のことで、通常は左右で約180度あります。これが一部欠けていたり、狭くなっていたりすると、本人が気づかないまま見落としを繰り返す可能性が高まります[2]。
実際、「視野欠損 事故」「見落とし 交通事故」「視野狭窄 見逃す」といった検索ワードには、多くのドライバーの不安が反映されています。
2. 「見えているのに見逃す」──脳と目の意外な関係
視野の問題は、必ずしも眼だけの問題ではありません。視覚情報は目で捉えた後、脳で処理されて初めて“見た”ことになります。
この処理機能が低下していると、たとえ視界に対象物が入っていても、脳がそれを認識できない状態──「注意の瞬間的欠落」や「選択的注意障害」と呼ばれる現象が生じます[3]。
特に高齢者では、加齢による認知機能の低下と視覚機能の衰えが重なり、「操作ミス」「判断ミス」「認知ミス」のすべてが連鎖的に起こることがあります。
3. 視野障害の原因とその見逃されやすさ
視野が狭くなる代表的な疾患として、緑内障が挙げられます。これは進行性かつ初期には自覚症状が乏しく、「ある日、免許更新で初めて視野異常を指摘された」というケースも少なくありません。
また、脳梗塞や頭部外傷などで起こる半側空間無視(hemispatial neglect)なども、視野異常に近い症状を呈することがあります。これらの病態では、患者本人が「見えているつもり」になっているため、異常に気づかず運転を続けるリスクがあります[4]。
4. “視野”のチェックは、事故を防ぐ第一歩
目の現行の運転免許制度では、視力は定期的にチェックされる一方で、視野の検査は義務ではありません(※視野障害を届け出た場合を除く)。これは多くの専門家が問題視している点でもあります。
以下のような症状がある方は、眼科での視野検査(静的視野計、動的視野計など)を受けることを推奨します。
- よく物にぶつかる、段差につまずく
- 車線変更で隣の車を見落としたことがある
- 歩行者や自転車に気づくのが遅れた
- 明るい場所でもなんとなく見づらい
視野異常は早期に発見・対策をすれば、進行を抑えることも可能です。見落とし事故を「性格」や「不注意」と片づけず、視覚の科学的な側面から見直すことが、安全運転と事故防止につながります。
参考文献
[1]警察庁:道路交通法施行規則(視力基準に関する規定)
[2]Haymes SA, et al. “Driving performance of drivers with visual field loss.” Arch Ophthalmol. 2007
[3]Mack A, Rock I. “Inattentional Blindness.” MIT Press, 1998
[4]林隆之「視野障害者の見落とし行動と脳機能の関連性」日本交通心理学会誌, 2020